郷土の味覚と珍味(2)
3.「デベラ」をご存知?
酒やビールのお伴に、乾きものがよく利用されるが、もっとも好きなものが「デベラ」だ。小さい頃に食べたような記憶もあるが、定かではない。明確に知ったのは40歳を過ぎた頃だろうか。仕事で山陽地方に滞在したころ、居酒屋さんで勧められたある乾きものに出会った。掌サイズの細いカレイのような干物を軽く焙ったもの。思わず「これは旨い!」、やや硬いが噛むと口中に独特の香りと豊かな味がパーッと広がる。名前は「デベラ」という。特に有名なのが尾道の冬の風物詩といわれる「デベラ」だそうだ。
「出平鰈(でべらかれい)」と呼ばれているが、正式には「タマガンゾウヒラメ」。手を広げたような形なので「手平」、「デメヒラメ」が訛って「デベラ」、さらに訛って「デビラ」など諸説あるようだ。瀬戸内海沿岸で収穫されるが、近年は減少しているとのこと。 (デベラ)
大きいものは骨が固いので、木槌などで叩くとよいそうだが、10㎝前後が適当な大きさ。焼く前に何か所か背骨を折り曲げ、2分ほど火を通す。頭の先から尻尾までバリバリ食べられる。味付けはそのままでもよいが、七味・マヨネーズが好みだ。ネットを利用して産地から取り寄せたりしている。
4「姫貝」の干物
子供の頃、大人が酒のつまみにしている貝の干物にちょっかい出して口に入れた。甘みが強く、秘かに渋みのようなものがあり、軽く焙った時にでる香りや濃厚な味は忘れられない一品となった。名前を「姫貝」という。長じて酒類は人並みに嗜むほどになったが、この「姫貝」の干物は殆ど見かけることがなくなった。
数年前、築地場外市場に出かけた時、「姫貝」のことを思い出して、大きめの干物屋さんの店頭で物色したが見つからない。年長の店員さんに尋ねたら、奥から大事そうに新聞包みを持ってきた。やっと見つかった。早速買い求め、帰宅後軽く焙って食した時、ようやく遠い過去の懐かしい味が蘇った。 (姫貝)
「姫貝」という名称の貝が存在するものだとズーッと思い続けていたが、実はそうではなかった。実際はよく知っている「バカガイ」(通称アオヤギ)の剥き身をそのまま乾燥させたものを「桜貝」、釜足を引き延ばして乾燥させたものを「姫貝」と呼んでいるそうだ。素敵な名称に勝手にイメージを膨らませていた? バカガイや青柳なら寿司屋でよく食べたものだが、己の浅学菲才を恥じ入る次第。落語じゃないが、「イカ」と「スルメ」の関係と同じだ。しかし、バカガイなら今でもたまにみるが、干物にしたものが珍重され、高く売れるのであればもっと付加価値をつけて販売促進したらいいと思うのだが・・絶滅危惧種になっても困るし。バカガイは日本全国に分布しており、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海が主要産地。但し、加工した「姫貝」の産地は大分が県が有名とのこと。 (姫貝)
なお、 蛇足ながら「バカガイ」を「青柳」と呼んだのは江戸時代の江戸前寿司職人が、音声でそのまま耳に伝わることを嫌い、当時の江戸湾周辺における集積地であった上総の国市原郡青柳(現千葉県市原市青柳)の地名を使って、これを雅称として呼び代えたのが始まりだったことは有名な話。(続く)
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