郷土の味覚と珍味 (3)
5. 山梨(甲府)の煮貝
20代の時、縁あって甲府に行く機会が増えた。そこで煮貝というものに出会った。何かと言えば、「アワビ」の醤油漬けで甲府の名産だと言う。なんで海のない県で「アワビ」なんだ?そもそもアワビは刺身か蒸したものだろう。しかもコリコリした身の部分よりまわりの深緑色の肝の部分こそ最高だという。普通は食べない部分だ。ところが勧められて恐る恐る口に入れてみて驚いた。まさに初めて出会う食感、得も言われぬ風味、これはお酒のお伴に最高の逸品だと確信した。 甲府の煮貝
煮貝は江戸時代、駿河湾で獲れたアワビを加工し、醤油漬けにして木の樽に入れ、馬の背に乗せて甲斐に運んだところ、馬の体温と振動によって醤油がアワビに程よく染み込んで、甲府に着くころにはちょうど良い味に仕上がったとする伝承がある。現在では大半が輸入品とのことだが、それでもかなり高価で深緑色の肝の部分はなかなかお目にかかれなくなった。
6. クジラの尾の身の刺身
「鯨」といえば、60代・70代以上の世代には切っても切れない食材だ。学校給食で、家庭の食卓で、牛肉や豚肉の代わりにいやというほど食べた(いや、食べさせられたと言った方が正確か)。ところがある時期から殆ど口に入らなくなった。いうまでもなく、世界的な反捕鯨運動の影響だ。そんな中で、細々と並ぶ鯨肉をスーパーの片隅で見つけた時に喜んで買い求めた。しかし、子供の頃慣れ親しんだ味とはイマイチ違う。次に冷凍したものを特別に注文した。半分凍った鯨肉を醤油に漬けて口に入れた時、やっと昔の懐かしい味覚が蘇った。 鯨の尾の身の刺身
しかし、鯨の刺身は何と言っても、昔渋谷の鯨専門料理店で食したナガスクジラの尾の身の刺身が最高だ。淡いピンク色に網状のサシが入った霜降りの身。口に入れると口内の温度でとろけて、旨味が口いっぱいに広がる。「まぐろの大トロと馬刺しの良いとこ取り」と言われる一品だが、確かに舌の上でとろける尾の身の刺身は絶品以外の何物でもない。
◆本シリーズの(1)で紹介したタイラギ、それを買い求めた地元のスーパーは大変ユニークで、小田原漁港で水揚げされた様々な魚介類が生きたまま陳列されることもある。クジラの冷凍切り身(塊)はいつでも買うことができる。下の写真はクジラの赤ちゃん?ではなくて3mほどのカジキマグロ。さすがに一尾丸ごと買う人はいないだろうが、小分けにしたものが食卓に並ぶ。
◆さて、3回に亘って各地の郷土の味、珍味などについて述べてきたが、この辺で終了する。江戸時代から言い伝えられる日本三大珍味は、越前のウニ、三河のこのわた、長崎のカラスミということだが、現代の三大珍味を自分の知る狭い範囲ながら独断で選んでみた。
〇山梨の煮貝の肝 〇トラフグの白子焼 〇長崎のカラスミ (終わり)
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