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2010年5月29日 (土)

芥川龍之介の「トロッコ」

◆芥川龍之介の短編「トロッコ」は少年時代の未知に対する冒険心と不安な
感情を生きいきと描いて、読んで共感を覚えたものだ。昭和26,7年頃だろうか、
場所ははっきりと覚えていないが、長崎市の郊外の道路工事現場だったと思う。
まさに短編「トロッコ」のシーンの中に溶け込んだように、悪ガキ数人と「トロッコ」
を押したり、乗ったりして遊んだ。遠い昔の消えかかりそうな思い出だ。
◆この短編の舞台となったのは小田原、熱海間に軽便鉄道(小型の蒸気機関
車)が開業する明治40年、その敷設工事現場と少年の住む沿線の村落である。
小説を読むと芥川自身の少年時代の体験をもとに書いたものではないかと思
われる。事実、みかん畑や沿岸の海が見えるシーンが登場し、臨場感溢れる
ものであるから、そう思うのも止むを得ない。ところが芥川は東京本所生まれ、
住まいも、新宿とか田端あたりで、この近辺を取材した形跡は見当たらない。
◆さらに、芥川がこの作品を発表したのが、大正11年2月、30歳の時だった。
小田原、熱海間の軽便鉄道が開業したのは明治40年12月、15年後のことだ。
明治40年頃の芥川は中学・高校(一高)と抜群の成績で秀才の名を欲しい儘に
していた。その彼がどうしてこのような田舎風景を小説に仕上げることができた
のか。◆さらに2年後には「一塊の土」という短編を発表した。どちらも都会育ち
で、歴史好きの作家にはおよそ似つかわしくない田園の風物詩であり、土着の
人間模様を描写したものだ。調べてみると、芥川の弟子の原稿をもとに書いた
ものらしい。「一塊の土」もこの弟子が材料提供者として協力したともいわれて
いる。都会しか知らない作者が、農村生活をこのように造形したことは当時、
大きな反響を呼んだそうだ。やはり天才と言うほかない。

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